幸せ読書

読書を通して、小さな幸せ見つけたい。

「鎌倉うずまき案内所」 青山美智子 宝島社文庫

主婦向け雑誌の編集部で働く早坂瞬は、取材で訪れた鎌倉で、 ふしぎな案内所「鎌倉うずまき案内所」に迷いこんでしまう。そこには双子のおじいさんとなぜかアンモナイトがいて……。 YouTuberを目指す息子を改心させたい母親。結婚に悩む女性司書。クラスで孤立したくない中学生。 気づけば40歳を過ぎてしまった売れない劇団の脚本家。ひっそりと暮らす古書店の店主。 平成の始まりから終わりまでの30年を舞台に、6人の悩める人々を通して語られる、心がほぐれる6つのやさしい物語。 最後まで読むと、必ず最初に戻りたくなります。(紹介文引用)

青山美智子さん、初めて読む作家さんでした。
どういった経緯でこの本を手にすることになったのかは不明なのですが、
気がついたら、iPhoneKindleに入っていました。
もう、何年も小説を読む習慣から離れていた私に、「小説って、本当にいいなぁ」と改めて思わせてくださった作品です。

さて、本作は、令和の始まりの2019年から昭和の終わりの1989年まで
6年ごとに遡って行く6つの短編から構成された連作短編集です。
短編ごとに、それぞれ悩める6人の主人公が、鎌倉うずまき案内所を訪れるます。
そして、案内所の所長であるアンモナイトから(実際は、案内所でオセロをしている双子のお爺さんが翻訳して)
お告げのような、人生の悩みに効くヒントをもらって帰ることとなります。
ただ、それだけではなく、出てくる登場人物が次の話や、その次の話で、
登場してきて、若いころはこんな人だったんだとか、この人とこの人が
こんなつながりがあったのかなど、微妙にお話がリンクしているのが、
大変面白くて、わくわくしながら読み進めました。

蚊取り線香の巻、つむじの巻、巻き寿司の巻、ト音記号の巻、花丸の巻、ソフトクリームの巻。
いずれも甲乙つけ難く良いのですが、私としては、ソフトクリームの巻が一番好きかな。鎌倉で古本屋を営む初老の文さんと、その古本屋に出入りする高校生のお客さん。その高校生の一人の六郎が古本屋に持ち込んだオートリバース付きのラジカセ。そして、かける曲がTMネットワークだったところは、自分も高校生の頃に、オートリバース付きのラジカセでTMネットワーク聴いていたなぁととても懐かしく、また嬉しくもありました。昭和だなぁって。それで、文さんがマーちゃんと再会したくだりでは、本当に会えて良かったねと胸が熱くなりました。

本作の全般に渡って軸となっている登場人物の黒祖ロイドには、やられました。
まさか、あの人が黒祖ロイドだなんて。思い込みで読んでいたので、
作者に最終話で、まんまと一杯食わされたような気になりました。
とっても、気持ちの良い一杯でした。

最後に、本作は、作者の青山美智子さんが、登場人物に寄り添うような優しさを
持って、書かれている作品だと思います。
その作風はとても優しく、温かで、本当に心に染みました。
こんな素敵な小説と出会えて、幸せだなと思いました。
また、小説を読みたいと思わせてくださった、青山美智子さんに
心より感謝しています。