幸せ読書

読書を通して、小さな幸せ見つけたい。

「殺人症候群」 貫井徳郎 双葉文庫

警視庁・人事二課、環敬吾が率いる特殊任務チームは、一見何の関係もない複数の殺人事件に関連性がないか捜査を開始する。「大切な人を殺された者が、犯人に復讐することは是か非か」という社会的テーマとエンターテインメントを融合させた読み応え抜群の徹夜本。サスペンス、社会派、ハードボイルド、そして本格ミステリー。あらゆる醍醐味を味わえる、シリーズ三部作の掉尾を飾るにふさわしき大作にして傑作! 装い新たに新登場!
(紹介文引用)
 

今回の感想は、本作品のテーマに絞って書いて行きたいと思います。

上の紹介文では、「大切な人を殺された者が、犯人に復讐することは是か非か」が本作品のテーマと書いてありますが、本作を一読した私としましては「職業殺人者(殺人請負人)は、是か非か」の方がより本作のテーマに近しいと感じています。

話の途中で、職業殺人者の仲間は言います。「私達は生きてるに値しない人間しか殺していない。私達がしていることは正義なのだと。」
だが、生きているに値するかしないかは、誰が決めれる事なのでしょうか?法治国家の名の下での司法制度の少年犯罪や精神疾患者に対する機能は不全に陥っていると言っても過言ではないかも知れません。そうするならば人間か?神か?誰が決めれるのでしょうか!?

一方で、敵討ちと職業殺人は全然別個のものだと私は考えます。明治6年の「復讐禁止令」の公布までは、武士階級では、敵討ちは認められていました。少々ラディカルに思われるかもしれませんが、私は、敵討ちは認められても良いと思います。しかし、他人の敵討ちをお金で請け負い、それが正義だと言うのは、欺瞞であり、エゴであると思います。

そう言う観点から申し上げれば、私は復讐は是だが、職業殺人は非だと言う考えになると思います。これが、本作をずっと真正面から真剣に考えてたどり着いた私のテーマに対する答えです。こういう事を明言すると、復讐は復讐の連鎖を招くとか、法治国家での社会的秩序が守られないと、ご批判を受ける事も重々承知しております。でも、私は、人間は、理屈や法律だけでは、割り切れない感情の生き物だと思っています。私は、もし妻が何者かに殺されたら、絶対にその人間を生かしてはおきません。

それにしても、重く、悲しい場面の多いお話でした。

最後に、歌舞伎町で見えたような後ろ姿がもし倉持だったなら、著者のテーマへの答えがそこにあったような気がしました。