幸せ読書

読書を通して、小さな幸せ見つけたい。

「誘拐症候群」 貫井徳郎 双葉文庫

誘拐事件が連続して起きていた。しかし子供の家族がなんとか払える身代金を要求するため、表沙汰にはなっていない。今、警視庁人事二課・環敬吾は影の特殊工作チームに招集をかける。だがその時、メンバーの一人で托鉢僧の武藤隆は、知り合いの子供が誘拐された事件に巻き込まれていた――闇に潜む卑劣な犯人を必ず炙り出す! ページを捲る手がとまらない、大人気「症候群シリーズ」新装版・三月連続刊行、第二弾!
(紹介文引用)

警視庁の影の特殊工作チームの環が追う、小口誘拐事件と、環のチームのメンバーである托鉢僧の武藤が巻き込まれる大口誘拐事件が巧みに交互に重なって来る展開は、読者の興味を飽きさせない作者の素晴らしい構成力だなぁと感心しました。

作品の途中、武藤が掴んでいる情報をただ警察に伝えるのではなく、自分自身で犯人確保にたどり着きたいという男として、いや人間としての意地が文面からひしひしと伝わって来ました。こう言う人間臭い所も面白かったです。

少しずつ犯人に近づいていく所の描写がとても上手で緊迫感があり、手に汗握る展開でした。

また、終盤に分かる、犯人起訴後に明らかにされる真実にも驚かされました。

でも、その結末より私が共感したと申しますか、思い出したと言った方が適切なのかも知れませんが、武藤が巻き込まれた事件の被害者である高梨のことを武藤が何故気にかけていたのか悟ったといいます。「高梨もまた、胸の奥に《獣》を飼っていたのだ。武藤が嫌悪し、目を背けてきた醜い《獣》を」と。この内に秘めた《獣》こそが、数々のハードボイルド作品を世に送り出して来た北方謙三の作品のテーマだったからです。北方謙三作品の『牙』や『檻』、そして名著『挑戦シリーズ』に続くテーマであったと思いますし、今、本作を読んで改めて思い出しました。

20代のころ私が夢中になって貪るように読んだ北方謙三などのハードボイルド作品を本作の作家の貫井さんは多分全て読んでらっしゃるんだろうなぁと思いました。

そのハードボイルドテイストと社会派ミステリ小説を見事に融合した本作は、素晴らしい作品でした。本作、『失踪症候群』に勝るとも劣らない名作だと思いました。